銭湯のある街の物語 第1回 東京編
【大正湯】東京都大田区東蒲田

薪焚きのお湯こだわる、
気さくな町の銭湯

「若返る」と洒落たカエルの置物が見守る湯は薪焚き。柔らかくて心地いいと好評。

■銭湯データ
【大正湯】たいしょうゆ

住所 東京都大田区東蒲田1-21-6
電話 03-3731-6944
営業時間 16:00〜24:00
休業日 毎週金曜

 羽田空港への連絡鉄道の起終点駅でもある「京急蒲田駅」。800mほど離れた「JR蒲田駅」との間を足早に行き交う空港利用者も多く見かけられます。蒲田周辺は大正9年に松竹キネマ蒲田撮影所ができたことで急速に発展。「流行は蒲田から」といわれるほど華やかな時代を経て、やがて京浜工業地帯の中核を成し、日本の製造業を下支えするモノづくりの街となりました。映画と工業で発展を遂げてきた大田区は、銭湯の数が多いことでも知られています。東京都浴場組合のデータでは昭和40年の大田区の銭湯数は188軒、平成25年時点では49軒と減ってはいるものの、昔も今も銭湯数では都内で一番です。

 昭和9年から続く大正湯は、今では少なくなった薪でお湯を沸かす昔ながらの銭湯です。裏手にある大きな煙突のふもとには、トラックで運ばれてきた廃材が積まれ、三代目のご主人が釜の様子を見ながら、1mほどの長さに切りそろえた薪をくべていきます。薪で焚かれた大正湯のお湯は、柔らかくて心地良いと定評があります。ガリウム石による人工ラジウム温泉が流れ出てくる柵の向こうには、ラジウムの効果で「若返る」と、釜屋の職人さんが置いていった洒落のきいたカエルの姿も。昔ほど廃材が集まらなくなってきたため、燃料をたくさん必要とする冬場などには薪だけでは追いつかないこともあり、燃料効率を上げる薪のくべ方を工夫しながら日々努力しています。

 脱衣所と休憩スペースには昭和の懐かしい雰囲気が漂い、独特の居心地の良さがあります。昭和らしいマッサージ椅子の隣には、ぶら下がり健康器が設置され、湯上がりにぶら下がってから帰るお客さんもいるとか。休憩スペースの床の一部がガラス張りになっていて、庭の池とつながっている床下から優雅に泳ぐ鯉を眺めることができます。先代が京都で見た仕掛けを取り入れたそうで、遊び心のある気さくな銭湯として長く愛されています。

 大正湯までは、京急本線京急蒲田駅」より徒歩5分、JR線「蒲田駅」より徒歩15分。近くにはキネマ通り商店街があり、「キネマ」と名の付く建物があちらこちらで見られます。2013年から始まった蒲田映画祭や、市民全員参加型で企画した異例の映画プロジェクト(映画「未来シャッター」ネットワークプロジェクト)等、再び映画の街として盛り上がりつつある蒲田。お隣の「大森駅」まで足を伸ばせば、テレビ小説「花子とアン」のヒロイン・村岡花子の暮らした街のスポットめぐりも楽しめます。

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